９．むかしむかしのお話

９．　むかしむかしのお話

　むかしむかし。
　といっても、それほど昔でもない、昔。

　あるところに、若い夫婦がいました。
　妻は夫をとても愛していて、夫も妻をとても愛していました。
　ふたりは、こどもが大好きで、はやく生まれてくることを、いつもいつも教会で神様にお願いをしてました。
　願いが通じ、神様は、ふたりに子供を授けました。
　それは１２月２４日のクリスマス・イブ。
　生まれてきたのは、それはそれはかわいい男の子でした。
　夫婦はとても喜びました。
　神様にお礼を言おうと、次の日のクリスマスに、夫が教会にでかけると、そこにはかわいいかわいい女の赤ちゃんが、籠に入って眠っていました。
　子供が大好きな夫婦は、神様のさずかりものだと感謝をし、その赤ちゃんを家に連れて帰りました。

　ぼくだって、林檎の生い立ちというやつが、ずっと気にならなかったわけではない。
この話は、ぼくが６歳のときに、母から聞いた、林檎のはなし。
　若い夫婦だった母と父は、クリスチャンではなかったけれど、教会の静観な雰囲気が好きで、いまでも手をつないで、休みの日によく出かけている。
　ほんとうのことを言えば、つまり林檎は捨てられっ子だ。
　でも、ぼくにとっても、母にとっても、父にとっても、林檎は『神様のさずかりもの』なのだ。
　大事な、大事な、宝物。
　綿菓子みたいに、気づいたら、なくなってしまいそうな。

back: next : novel : index : home