Maybe Blue 第一部 海の鼓動
初嵐7
すれ違う高校生が、どこか不審そうに自分を見つめては、ひそひそと語らうことに気づきながらも、帝都スポーツの記者・大内は凪浜高校のグランドを目指していた。
確かに、制服姿の高校生の中を、一人よれたスーツ姿の小汚い三十過ぎのオヤジが歩いているというのは、どう見ても胡散臭い。
だが、そんな視線を気にするほど、大内は繊細ではなく、また今は、時間を気にする余裕はあまりなかった。
そのわりに大木の足取りは、ゆっくりとしていた。
スポーツ記者のくせに、時間をさして気にしないのは、もともとの性格だ。しかも、こういう時に限って、大内の心は弾んでいる。
理由は単純なこと。俺は、楽しんでいるんだ。
この、手にしたスクープを、ただ一人自分が持っているという優越感を。
自然に笑みを漏らしていたのか、またすれ違った女子高生が、「気味悪い」というのが聞こえた。
放課後なのに人が多いと思ったら、学園祭が近いらしいことを、大内は今までにすれ違った生徒たちの会話から盗み聞いた。
その準備に夢中な生徒もいる中で、練習とは、さすがは全国制覇しただけのことはある。すごい熱の入れようだな。
まあ、選手権の県予選も始まるのだし、それは当然か。
大内がそう考えていると、坂の上から歓声や、ボールを蹴る音が聞こえてきた。
その声を聞き、大内はこのスクープを伝えるために会いに来たあの端正な顔を想像した。
この話を伝えたとき、何と答えるのだろうか。
どう、反応するのだろうか。
そうでなくとも、あの無表情に近い表情が、どう崩されるのかを想像すると、大内の心はまるで少年の頃のように弾んだ。
そんな大内の心に、一瞬だけ、以前に無視された記憶が過ぎり、だが大内は小さく首を振った。
今度はそういうことにはならないはずだ。
そうして、しっかりとした足取りで坂を上ると、目の前に広がったグランドでは、まさに目当てのサッカー部が練習をしている最中だった。
探していた人間は、すぐに見つかった。
華がある人間というのは、どこにいてもすぐにわかるものだ。
しかし、華と言っても、派手やかさではない。そう、派手やかな華があるのは、この凪浜高校サッカー部の双璧のもうひとつ、福山朔哉だろう。
ちょうどその時、ボールを追いかけて、目当ての選手が大内の方に走ってきた。
艶やかな髪が、海風に踊り、その端正な顔を覆う。
だが、そんなものでは隠せないくらいのオーラを、大内は確実に感じていた。
そう、この華は、明というよりは、暗とか陰に近いのかもしれない。
だが、確実にひきつけられる魅力のある存在感。
大内は、自然と近づいてた。
グランドには関係者以外立ち入り禁止と石橋が決めた為、フェンス越しに、大勢の女生徒が練習の様子を見つめていた。中には、写真を撮っている人もいる。
その様子を見て、ひゃぁと小さな叫び声を上げた理香は、隣の萌子に話しかけた。
「たかが軽い練習なのに、すごいギャラリー。ほんと、大変なことになっちゃったよね」
「何が？」
テーピングやコールドスプレーの数を数えている萌子は、顔も上げずに答える。その隣に理香は座ると、周囲を気遣って声を小さくして言った。
「右京君のこと。サッカー誌に取り上げられちゃってさ」
夏のインターハイが終わり、各サッカー雑誌には多かれ少なかれ、その記事が掲載された。初戦敗退した凪浜高校の記事はほとんどなかったものの、一誌が最優秀新人選手として右京の写真と名前を載せていた。また、別の雑誌には、ユース代表のエースに選ばれたとして、掲載されていたのだ。
「おかげで人気もうなぎ登り。毎日ファンレターが学校に届いてるんだって」
理香はそう呟いて、萌子の反応を見たが、萌子はふぅん、と気のない返事しか返さない。
まあ、萌子らしいといえば、らしいんだけど。
理香は小さく溜息をついて、声援と、フラッシュの中でボールを追いかける右京を見つめた。
「ってか、あたしも別の学校の友達に頼まれてんだよねぇ。写真」
だが右京は、理香に素っ気ない。
理香だけでなく、美都にも、もちろん他の部員にもだ。
だが萌子とは、クラスメートでもあるせいか、少しばかり違うように理香は感じていた。
右京は、理香たちのことを気にしていないとするのであれば、萌子はあえて無視をする。
そこにあるのが、愛情なのか、友情なのか、それとも憎しみに似た感情なのか、理香にはわからなかったが、何となく萌子に相談したら、何とかなるんじゃないかと思っていた。
だが、とうの萌子がこうも無関心だということは、どうにもならないと理香は諦めることにして、右京の姿を見つめて作戦を練ろうとしたとき、見知らぬ影が視界に入った。
「ね、萌子。あれ、誰？」
理香に言われ、ようやく萌子が顔を上げると、グランドの隅に、見知らぬ男性が立っていた。よれよれのスーツに、ネクタイは緩く、かろうじて結ばれているように思える。
「知らないけど」
好奇心旺盛な理香は、立ち上がると、目をキラキラと輝かせた。
「すっごい胡散臭そうだよね。誰なんだろ？あ、なんか右京君に近づいてない？」
まさしくそのとき、ボールを追いかけた右京が、グランドの隅に走っていっていた。男は、にやりと笑みを浮かべると、理香のいうように、すっとその方向に足を向けていた。
「藤原右京君、だね」
ボールを追いかけてグランドの外に出た右京は、ボールを足で捕えたところで、急に話しかけられて、思わず顔を上げた。
どこかにやついた顔で、見知らぬ男が名刺を差し出してくる。
「前にも会ったことあるけど、帝都スポーツの大内です」
だが右京は、何も聞こえなかったように、大内の脇をドリブルですり抜けようとした。
今まで何度も取材を受けることもあったが、そもそも話すことが嫌いな右京にとっては、できるかぎり避けたいことなのだ。
「あ、ちょっと―」
拒絶されたことに気づいていないのか、その男―大内は、慌てたように振り返り、右京を呼び止めようとした。
だがその前に、慌てて走ってきた萌子が、右京と大内の間に入る。
「すみませんが、取材は監督を通してください」
萌子ももちろん、右京が取材嫌いなことは知っていた。だが、この夏以来、理香の言うように取材依頼や、右京目当てのギャラリーが増え、右京自身にもどこか焦りのようなものを、萌子は感じるようになっていた。
ただでさえ今は、選手権の県予選を二週間後の日曜日に控え、選手はもちろんのこと、監督もコーチもぴりぴりとした空気が漂いはじめてた。こんなときに、選手の調子を損ねるようなことは、できるかぎり萌子は避けたいと思っていた。
だが、大内は、萌子を軽くあしらうように言う。
「俺は藤原右京に話があるんであって、お譲ちゃんに話があるんじゃない」
その言い方に、傍にいた笠間が割り込んできて言った。
「すみませんが、監督の許可がないと、取材は受けないよう言われてるんです」
そもそも石橋自身も、取材をされるのは好きではないほうだ。反対に、凪高の校長などはよく話を受けてくるようなのだが、それも断っているというのを、笠間は耳にしたことがあった。
笠間に明らかに行く手を阻まれた大内は、遠ざかる右京の背中を眺めながら、小さく舌打ちすると、突然に大声を上げた。
「君も立派な選手だろう。いちいち許可なんか、得ても仕方ない。
それに、これは君のいい宣伝にもなるんだ。君のとっても、悪い話じゃないだろう？全国の人が目にするチャンスなんだ。君の大切な人も見るかもしれないんだ」
一瞬、右京の足が止まった。
チャンスとばかりに、大内は右京へ近づこうとした。
「藤原―」
「とにかく、お引取りください」
だが、目の前には、笠間や萌子をはじめ、何人もの部員が集まっていた。そして、それぞれが大内に対して、出て行けといわんばかりの視線を送ってくる。
大内は小さく溜息をつく。
「また、くるよ。藤原君」
着替えも終わり、部室の掃除をしながら、理香が口を開いた。
「何だか気味が悪かったね。あの記者の人」
うんうんと篤志は頷き、手にした箒で床を掃きながら答える。
「それにしても監督いなくてよかったぁ。いたらきっと激怒してたよ」
石橋は、校長に呼ばれていたために、記者と顔をあわせることなく、あの後グランドに戻ってきた。
ふいに理香が、しみじみとした声を出す。
「何か、この前の記事もそうだったけど、ひとりで遠いところにいっちゃった、って感じだよね。右京君」
そして、練習を終えた右京は、何もなかったかのように部室を出て、帰っていってしまった。
そんな右京のロッカーを見つめ、凪浜だけの人気が、全国区になるときの物哀しさというのを、朔哉のときに経験した理香は、まるで自分の雛が巣を旅立つかのように呟いた。
その隣で、いつか和美も同じようになったら、と心配をしていた美都は、ふいにさっきから萌子が黙り込んでいることに気づいた。
「どうかした？萌子」
「ううん。ちょっとね。あの記者が言ってたことが気になって」
「え？」
首を傾げた美都に、萌子が記者の言葉を繰り返して言う。
「大切な人も、見るかもしれないって、言ってたでしょう？」
右京の大切な人って、誰なんだろう。
そう考え込む萌子に、理香が大きく首を振った。
「どうせ適当に嘘ついただけでしょ？何とか右京君の気をひきたかっただけじゃない？」
「かもしれない。でも…」
萌子には、右京が一瞬だけ足を止めたことが気になっていた。
そういえば、と萌子は右京のことを全然知らない自分に気づいた。
触れてはいけない、そう思って深く知ろうとはしていなかったけれど、ユースの合宿から戻ってきた右京の無表情な横顔に垣間見える、焦りのようなものも気になっていた。
合宿には、右京がいたクラブの舟越って人も参加したっていう話だし。
ふいに顔を上げると、自然と成と目が合った。だが、その瞬間に、成はしずかに視線を逸らした。
萌子は、小さく息を呑むと、チャンバラごっこで盛り上がる篤志と和美の間をすり抜けて、成の近くまで来ると、不自然に視線を逸らしたままの成に、そっと問いかけた。
「…何か知ってるの？成」
部室のドアを開けたところで、篤志はワッと理香に声をかけられると、
「アッチ、帰ろうっ」
と元気よく言われた。一通り掃除も終わり、その片付けも終えた、あとは部室の鍵をかけて、教官室に返せばいいだけであった。
「あれ？萌子は？」
「用事があるんだって、先に帰った。美都も、和美くんと一緒に帰るってさ」
「ふーん」
篤志はそう答えると、最後に残された湊を待って、鍵をかける。
「なんだかんだいって、あの二人ってラブラブなんだよね」
ふーんと篤志が気のない返事をすると、理香は口をとがらせながら、篤志の腕を取る。
「ねっ、アッチ」
「何だよ」
恥ずかしさから、そう答えると、理香が不満そうな表情をした。そんな二人を見て、湊はそっと篤志の手から鍵を奪い取る。
「つまり、理香も篤志と一緒に帰りたいってことだろ？
いいよ、俺が鍵を返してくるから。先に二人で帰ってなよ」
「湊っ」
篤志はそういって手を伸ばし、湊から鍵を奪おうとしたが、その手を理香が引きとめた。
「湊君っていいやつっ。絶対にあたしが素敵な彼女、みつけてあげるからね」
くすくすと笑い、湊は答える。
「気を使ってもらわなくて大丈夫。それじゃ」
鍵を振りながら、そうして教官室へと向かう湊の背中を見ながら、篤志は叫んだ。
「あ、湊。…バカもの、理香」
「何よ、その言い方」
「湊はお前と違って純粋なの。一途なの」
そういって篤志は理香の腕を振り払う。
ムッとしたように理香が言い返す。
「ちょっとそれどういう意味よ。
あたしだって、一途にアッチのこと想って―」
「お前、昨日ラグビー部の大畑先輩と一緒に写真撮ったらしいじゃん。ファンですっ、とか言って」
ラグビー部三年の大畑は校内でも人気の高い生徒である。
理香は、まずい、という表情をしたあとで、再び篤志の腕を取る。
「でも、でもでもでもっ、ただのファンなだけじゃん。いいでしょ？」
ね、と甘えたように言われると、篤志も答えようがなくなってしまった。
「別にいいけどさ…」
周りに誰もいなくなったせいか、理香は篤志に体を寄せると、そんなことより、と話し出した。
「もしかして、湊君ってば、まだ美都のこと好きなの？」
それは、湊を非難するような言い方でもあった。
実際、美都には和美という恋人がいて、二人は周囲の予想に反し、うまく続いている。
篤志が知りうる中で、湊は一番辛い恋をしているように思えたが、何故か一番幸せなようにも思えていた。
「湊がそれでいいと思ってるんだから、いいだろ。俺たちが口を挟むことじゃないよ」
アルジャーノンじゃちょっと、と成が言った為、萌子は掃除が終わると、待ち合わせ場所となった学校の裏にある喫茶店にやってきた。
遅れて現れた成に、初めから萌子が気にしていたことを聞くと、成は合宿であったことを話した。
つまり、右京が舟越と乱闘しかけたということ。
そして、そのきっかけは、おそらく舟越が右京の母親のことでからかったということ。
その内容は、右京の母親が不倫をして出て行ったということ。
もし、右京が会いたい人がいるというのならば、その母親ではないかという成自身の意見までも。
全てを聞き終えた萌子は、小さく答えた。
「そう。なんだ」
そして萌子は、改めて、自分が右京のことを何も知らないことに気づいた。
何となく浮かない表情の萌子に、成はフォローするように付け加える。
「でも、本人から聞いたわけじゃないから、本当かはわからないよ」
だが、まともに右京に尋ねたとしても、今のままでは何も答えてくれないことは、萌子にもわかっていた。
『他人に知られたくないことに、自分勝手に首を突っ込むな。迷惑だ。誰にだって、そういうことがある。お前だってそうだ』
いつか右京にそう言われたこともあった。
だが、萌子には、最近の右京のことが特に気になっていた。
考え事をしてるせいか、ぼんやりしている萌子を見て、成は呟く。
「やっぱり、舟越と面識あったんだ」
「うん。舟越君って、地元がこっちみたいで。二回くらい、会ったことがあって。
やっぱりって？」
突然聞き返されて、成は慌てて答えた。
「あ、うん。いや、なんでも、ない」
まさか、舟越が萌子のことを右京の彼女だと思ってる、なんて言えるはずもない。
第一、 萌子は失恋したばかりなのだ。
慌ててアイスティーを飲んでいると、後ろから声が掛けられた。
「あれ？早坂？」
振り返ると、そこにはクラスメートが同じラグビー部の仲間と立っている。
「お。おつかれ」
「部活終わり？」
「ああ。そっちも？」
一瞬だけ、相手の視線が不自然に萌子に向いたのが、成にはわかった。
「うん、まあ、そんなとこ」
曖昧に答えたせいか、クラスメートは成の頭を小突いた。
「何だよ、早坂。水臭いじゃんか。どおりで関谷のこと断るはずだよな、彼女いるんなら」
「え？」
声を上げたのは、成だけではない。
萌子も、おとなしくミルクティーを飲むのをやめると、はじかれたように顔を上げた。
「付き合ってるんだろ？お前。沢木さんと」
「あ」
成と萌子の視線が、一瞬絡み合う。
それは、あの夏の盛りの、鏡越しの視線を思い起こさせた。
あの時、萌子は目を逸らすことなく、淡々と言った。
『私は、成のこと、仲間としてしか見てないですから』
成の声が、妙にこわばったようになり、ぎこちなく返事をかえす。
「…違うよ。別にそんなんじゃなくて。ただ、話があったから」
「隠すなよ、そんなむきにならなくてもさ」
にやにやしながら、楽しそうにそういうクラスメートに、成はきっぱりと、言った。
「本当に。ただの、仲間だからさ」
「ただいま」
リビングに明るい声が響き、机の上の数字とにらみ合いをしていた朔哉は顔を上げた。
「おかえり。あ」
その笑顔が少しだけ戸惑いを見せ、篤志は首をかしげた。
「なんすか？」
当然というような篤志に、期待をしていた朔哉は恥ずかしくなって小さく咳払いをしてから聞き返す。
「…篤志ひとりか？」
「ええ。そうですけど。何か？」
「いや、ちょっと、な」
篤志が寮に顔を出す、ということは、当然萌子も来るものだと思っていた朔哉は、その恥ずかしさを隠すように、手元の数字を再び確認した。そんな朔哉を、篤志は不思議そうに眺めて尋ねた。
「何やってんですか？」
「文化祭の出し物だ。サッカー部は代々たこ焼き屋って決まってるからな」
凪高の文化祭は、今週末に行われる。
夏休みが終わり、二学期に入ると、三年生は基本的に引退となり、純粋な部活動以外のことは禁止されていた為に、こういう恒例の学校行事の窓口になるのは、二年のキャプテンである朔哉であり、その為文化祭での予算組みなどを、朔哉は考えていたのであった。
「へぇ」
篤志はそう答えてカレンダーに目をやると、二週間後の日曜日に赤いペンで書かれた丸印が目に付いた。
「あと、二週間後ですね」
「ああ」
選手権の神奈川県二次予選の一回戦の日であった。
この予選は、トーナメントになっており、負けたらその場で選手権への道が絶たれることとなる。
篤志には、笠間や、柳田たちがいなくなった凪高サッカー部というのが、まだうまく想像できなかった。
「頑張ってください」
力強くそういうと、朔哉は顔を上げて明るく笑った。
「何を人ごとみたいに言ってんだ。お前も頑張るんだぞ、篤志」
言われた篤志は、思わず背筋を伸ばす。
「はい、頑張ります、っつーか、頑張りましょう！」
「その通り」
笑い声を上げる朔哉を見て、篤志はどこかほっとした。
「朔哉さん。それで、何か、あったんですか？」
篤志にそう聞かれた朔哉は、尋ねるかどうかと一瞬ためらったものの、思い切って聞き返した。
「いや、モエちゃんと一緒かと思ってさ。文化祭の話、しようと思って」
言い訳がましくそう言ったが、篤志は特に気にならなかったようだった。
「萌子は、用事があるとかで、先に帰ったらしいから、今日は来ないと思いますけど？」
「そか。うん。わかった」
さりげなさを装って、朔哉はそう答えた。
少しだけ、その表情を曇らせながら。
「送るよ」
喫茶店を出ると、成はそう言った。断る理由もなく、萌子は小さく頷いて、その後に従った。
さすがに九月に入ると、夜風は涼しくなる、
そうして、うだるような暑さのあの合宿から、もう一ヶ月以上も過ぎたことを萌子に実感させた。
あの時、同じように答えたのは自分だった。
ただの仲間だと。
あの後、萌子は三上に告白をして、そしてふられた。
だったら、どうして。
どうして、今更、心の奥がざわつくんだろうか。
どうして、心の奥がずしんと重く感じるんだろうか。
目の前を歩く成の背中が、何故か萌子には遠く感じた。