Maybe Blue 第一部 海の鼓動
夏暁6
昼休み、教室の掃除に向かおうとした萌子たちを、小さな声が呼びとめて、顔を上げるとそこには亜紀子が袋を持って立っていた。
「どしたの？亜紀ちゃん」
理香が話しかけると、亜紀子は心配そうな表情で、声をさらに小さくして言う。
「昨日、何か事件があったとかって聞いて」
萌子たち三人はそれぞれに顔を見合わせる。そして理香が言葉を濁して答える。
「うん。まあ、ちょっと。でも、それが、どうかした？」
そう聞かれた亜紀子は、思いきったように顔を上げると、こう言った。
「あの。ちょっと気になって。…西村先輩のこと」
亜紀子は、篤志の弟・清志から、西村がハンドボール部で、今回同じ期間に合宿になっていることを聞かされたのだ。
「最近いろいろあったみたいだし、もしかして、今度も―」
萌子は一瞬だけ、びくっとした。美都はそれに気づいたが、理香は気づかぬままに、力強く答える。
「亜紀ちゃんが心配するようなことじゃないよ。大丈夫、大丈夫」
肩をかるく叩かれて言われた亜紀子は、素直に頷いた。
「そう…ですか。あのこれ」
「え？」
「環さんが、家にあったからどうぞって」
大きな紙袋の中には、花火がたくさん入っていた。
萌子たちは顔を見合わせる。
「ありがとう」
小さく頭を横に振る亜紀子に、それじゃあと言って別れようとした三人を、再び亜紀子はひきとめた。
「あの」
振りかえると、亜紀子は深深と頭を下げていた。
「よろしく、お願いします」
「ほんっと出来た子だよね、亜紀ちゃんって。由太ちゃんのこと、よろしくお願いします、なんて」
理香はそう言って、箒をはいた。
とりあえず音楽室の掃除を終えて、萌子たちマネージャー三人は次の化学室の掃除を始めていた。篤志と成は、生物室の掃除をやっている。
「しかも花火ももって来てくれたし。絶対に決行しないと！」
驚いたように萌子が言う。
「でも笠間さんが、禁止って」
「大丈夫っ。環ちゃんがついててくれるんなら、絶対に出来るからっ」
元気よく理香がそう答えたところで、成が顔を出す。
「萌子」
床を磨いていた萌子が顔を上げると、成が箒を片手に言った。
「監督が呼んでるって。教官室」
「あ、うん。わかった」
萌子は慌てて立ち上がる。成は萌子が出てくるまで、さりげなくドアのところで待っていた。すれ違うときに、萌子が成に小さくありがとうと言う。言葉は少なくても、その笑顔で二人の距離がわかる。
そして、ドアが閉まった。
「いい感じ、いい感じ」
ふふふと笑いながらそう言った理香は、美都にこう言った。
「計画大成功っ。あとは成くんの告白を待つのみっ。
こうなったら、意地でも花火大会を決行するぞっ、オー！」
「ありがと」
小さくそう言った萌子に、成は笑顔で返した。萌子もそれに気づいて、軽く笑顔で答える。
何か、話したいと萌子は思った。でも、言葉がうまく出てきそうになかった。それでも、成の目を見ていると、そのままで充分だと感じる。
そう、このままでいたい。
成と別れて、ドアが閉まる音を聞きながら、萌子は石橋のいる体育教官室へ向かった。
そのとき、ふいに成の笑顔をもう一度見たいと、萌子は階段の踊り場で、気づいたように振り返った。ちょうど、成の背中が、廊下の角に消えかけていた。
あふれ出てくる笑顔で、萌子は叫ぼうとした。
「ねぇ、せ―」
「ゆりっ」
階段の下から、聞こえてきた声に、思わず萌子は反応する。
「ちょっと待ってよ、ゆりっ」
思いきり振りかえると、階段を女生徒二人が駆け上がっていた。制服姿であるから、部活で学校にやってきたようだ。二人は胸に楽譜のようなものを抱えていた。
「ゆりってば、もう少しゆっくり歩こうよ。練習まだ始まらないでしょ」
「そうだけどさ。…でも、いつも、練習前には来てるから」
その間が、萌子にも誰のことを言っているのか気づかせる。二人は萌子に気づかぬまま後ろを通りぬけ、そのまま階段を駆け上がる。
「まったくゆりってば、本当に好きなのね。彼のこと」
少し間が空いて、ゆりと呼ばれた子が答える。
「うん」
「仕方ない。協力してあげるから。ほら、早く行こう」
ぱたぱたと、階段をかけあがる音が、二人の笑い声と一緒に萌子の耳に聞こえてきた。
だが萌子には、違う声が聞こえてくる。
『お願い、萌子』
『あたしたち、友達でしょ？』
踊り場で、呆然と立ち尽くしていた萌子の頭上からから、キャッという小さな悲鳴とともに、白い紙が舞い降りてきた。上の方から、先ほどの生徒が顔をのぞかせて言う。
「あっ、ごめんなさいっ。落としちゃって」
バサバサと、舞い降りてきたのは楽譜だ。
その楽譜は、揺らめいて、萌子の肩を掠めると、床に散らばっていった。
『ばいばい、萌子』
忘れかけていたせりふが、萌子の脳裏を過る。
結局萌子は、無言のままに階段を降りていった。
「あれ？」
萌子に名前を呼ばれて振りかえった成だったが、そこに萌子の姿はなかった。
幻聴？
…かもしれない。
そのくらい、萌子のことばかり、考えているから。
成はそう考えたところで、笑顔が思わずこぼれてしまう。
合宿が始まって、萌子がだんだん元気になっていることは、もちろん成も嬉しかった。
気のせいか、ふと気づくと萌子は近くにいて、ふと気づくと会話をしていた。
そう、このままでいられたら。
萌子の一番近くで、萌子の笑顔を見られるんだったら。
俺はもっとサッカーも頑張れると思う。
箒を握り締め、生物室のドアを開けると、中からちょうど篤志が飛び出してきた。
「アッチ、どこ行くんだよ？」
「うん、ちょっと」
何故かその表情は真剣だ。成は慌てて尋ねる。
「へ？掃除は？」
黒板の横には、まだ雑巾が置かれている状態で、篤志が一人で全部を終えた様子はなかった。
「ごめん、あと、任せる」
しかし篤志は、なかば成を無視するようにそう言い残して、足早に消えていった。
体育館中の窓を開けたが、いい風はなかなか入ってこない。
入江は西村たちと壁に寄りかかりながら、飲み物を口にした。昼休みが終わり、練習時間になろうとしていたが、ハンドボール部員の誰も動く気配はなかった。特に、西村は座りこんで眠ろうとしているようにも思える。
初日の怪我もあってなのか、それとも同時期に合宿になったサッカー部のせいなのか、合宿中の西村の機嫌はすこぶる悪い。
「聞いたか、サッカー部の部室」
ふいに誰かが話を持ち出した。ふられた入江も、ごく普通に答える。
「ああ聞いた。それに、見たよ、あの窓」
新しい窓ガラスが入るまで、一日かかるらしく、今は段ボールがあてがわれていたが、どことなくみすぼらしく見えて、いつものサッカー部らしくなかった。
「そこらへん走ってる暴走族とかだろ？運悪いな、サッカー部も」
部員の一人がどこからか入れてきた情報を口にした時、それまで黙り込んでいた西村が珍しく口を開いた。
「合宿中に、花火なんて、へらへら浮かれてるからだろ」
その言い方に、明らかに棘があり、思わず入江は顔を顰める。
「西村、そういう風に言うなよ…。あ、アッチ」
入江の視線の先には、真剣な表情の篤志が立っていた。
それに気づいた西村が、ゆっくりと視線を移すと、篤志が西村だけにはっきりと言った。
「ちょっと、いい？」
萌子は、歩いていた。というよりも、足が動いていた。
石橋の用事は大したこともなく終わり、また化学室に戻ろうとしていた。だが、歩いていると言う実感がなかった。
『ばいばい、萌子』
百合が言った言葉。
私が百合を傷つけた。
小さな誤解から。
そう。誤解、だった。
化学室を出たときとは違う気持ちで、戻ろうとした萌子の耳に、篤志の声が飛びこんできた。
「聞いたんだ。ハンドの女の子から。お前が昨日の夜校舎を抜け出してくところ見たって。
お前じゃ、ないよな」
思わず萌子は、声のする方へいくと、体育館の脇で、篤志と西村が話をしている最中だった。
西村は、壁に寄りかかりながら、横目で篤志を軽く睨む。
「何が？」
篤志の声は、いつになく真剣だった。
「昨日の犯人。お前じゃないよな、西村」
すると西村は、萌子に気付いたのか、体を起こして、向き直ると、大きな声で言った。
「お前は、オレがやったって、そう言えば満足か？高岡」
萌子が振りかえると、少し離れて由太が立っていた。篤志も驚いたように振りかえって萌子と、そして由太を見つめた。名前を呼ばれた由太は、そのまま黙って西村を見つめ返している。
西村は、目の前の篤志を無視するように、一歩由太に近づいてからかうように言った。
「だったら言ってやるよ。ああ、オレがやりました。
部室に入りこんで、花火ぶちまけて、窓ガラス割って。
ああ、やってやったよ。すっきりしたぜ」
その挑発的な言い方に、思わず篤志は西村の胸倉を掴む。
「篤志っ」
萌子がそう言ったが、篤志はその手を離そうとはしなかった。西村が篤志を一瞥して言う。
「何だ？アッチ。言いたいことがあるなら、言えよ」
「…お前」
怒りで震える篤志の腕を、萌子の脇をすり抜けてやってきた由太が止めた。
「…由太」
篤志は仕方なく、というようにその手を西村から離した。
目の前にやってきた由太を、相変わらず西村は睨んでいた。だが、由太は抑揚のない声で宣告した。
「学校側に、そう報告する」
「勝手にすれば？」
途端に、ばたばたと足音がして、入江が体育館から現れて、由太の肩を押さえた。
「待ってくれよ、高岡」
入江はそう言うと、振り返って早口で西村に言った。
「そんなことされたら、ハンド部無くなるぜ。それでもいいのかよ」
「いいんじゃねぇの？誰もやる気ないみたいだしさ」
視線を逸らしながらそう答える西村に、何か言い返そうとしていた入江だが、諦めたのか由太に向き直った。
「高岡、頼む。悪かった。
全部費用は出すから。花火、新しいの買ってくるし、ガラスも、すぐに直してもらうから。
だから、このことは学校には黙っててもらえないか？」
頼む。
そう言って、入江は頭を下げた。
だがそんな入江をあざ笑うように西村が言い返す。
「どうせ無駄だぞ、入江。こいつはお役人みたいに、融通のきかない野郎だから」
だが、入江は頭を上げない。その態度に、西村が、少しだけ苛立たしげに言う。
「だってそうだったろう？俺たち辞めさせた時だって、いい訳のひとつも聞きもせずに荷物事追い出したじゃねぇか。忘れたのかよ」
西村の声が響いた。
だが、入江は、由太の前で土下座した。
「頼む」
慌てたのは西村だった。入江の腕を取り上げるようにして小声で言う。
「入江、やめろよ。見苦しいだろ」
だが、入江は顔も上げずに答えた。
「見苦しくったっていいんだよ、俺は辞めたくないんだから」
「入江…」
「あの時だって、全部話せばよかったんだよ。俺たちはあの場にはいたけど、吸ってなかったって。そうすれば、辞めずにすんだんだかもしれない。確かに学校の外で煙草吸ってたけど、でも部室で吸ったことは一度もなかったって」
入江はそう言うと、由太に顔を向けた。
「俺たち、たしかにちゃらんぽらんにサッカーやってたけど、でも高岡。下手だったけど、それでも好きだったんだ。そこんとこのケジメはちゃんとつけてたから。
けど、あいつらは、そういうこと全然わかってなくて、見つからないところで吸いたいって言って、勝手に部室に入りこんだんだ。俺と西村は、それを止めてたんだ」
萌子も、由太の反応を待った。だが、由太の表情は変わらなかった。
入江が小さく付け足すように言った。
「今更、昔の話しても仕方ない、けど」
場が静まり返った。
だが、西村は由太を睨んでなおも続けた。
「俺は絶対に、高岡に頭なんか下げねぇっ」
「西村」
立ちあがった入江の腕を振り払い、西村ははじめて声を荒げた。
「お前はっ、俺たちからサッカーを奪ったんだっ。
たかが部長してたくらいで、
たかが生徒会長してたくらいでっ。
お前は、俺たちを退部させて、俺たちからサッカーを奪ったんだっ」
それは萌子がはじめてみる、感情を剥き出しにした西村だった。今までの西村は、どこか斜に構えて、不真面目そうに、厭味を言うだけだった。
そして、その言葉は、由太にも篤志にも響いていた。
黙りこんでしまったところに、新たな声が響いた。
「それは、違うと思うよ」
「大西先輩」
萌子が声を上げると、大西はにっこりと微笑んだ。
見知らぬ顔に、西村も入江も、少し戸惑っているようだった。
「サッカーは、世界で最も愛されているスポーツだ。
貧しいスラム街の子供たちでも、サッカーをしてる。グランドがなくても、ゴールがなくても、スパイクがなくても、ボールすらなくても、別のものをサッカーボールにして、彼らは道でサッカーをする。やる気があれば、どこでもできるスポーツだ」
大西は笑って、足もとのボールを蹴り上げた。ふと萌子は気づく。
昼休みなのに、練習をしていたのかもしれない。
大西にとって、この夏は、最後の夏。そして今は、最後の夏合宿なのだから。
「好きなんだろう？サッカー。だったらどうして続けなかったんだ？
続ける場所は、学校以外でもあったんじゃないのか？」
返す言葉のない西村に、大西は笑顔のままに言う。
「妙なプライドの為に、大事なこと諦めちゃ駄目だよ。辛いだけだ。
好きだったんだろ？サッカー」
西村は、その質問に答えられなかった。
トラップをミスして、転がったボールを追いかけると、私服に着替えた菊地がそのボールを大西に蹴り返した。
「頑張るな、大西」
自分の足元に戻ってきたボールは、ほどよい強さとスピードで正確に大西の足元に届く。
大西は、いつもの笑顔で答える。
「下手の横好き、ですけど」
「いつまで？」
「この合宿が最後です」
つまり、明日が引退する日だ。菊地は大西にパスを要求した。正確ではないかもしれないが、心地よいパスが菊地に届く。
「妙なプライドの為に、大事なことを諦めるな、か」
ふいに呟きながらパスを返した菊地に、大西は思わず顔を上げる。
「聞いてたんですか？」
「ああ」
「前に、菊地先輩が言ってた受け売りです」
恥ずかしそうに大西は笑うと、再びパスを返す。確かに、サッカーが世界で一番愛されているスポーツだと言ったのは自分だったなと菊地は思い出した。
「ありがとな」
「はい？」
きょとんとしている大西を見て、菊地は笑ってその緊張を解く。
「いや、何でもない」
今決めたことを、美智子に話さなきゃな、と菊地は思ってボールを蹴り返した。
ほんの少し先の体育倉庫の脇では、萌子が洗濯物を一人で干していた。
Ｔシャツや、ユニホームが風に揺れている中で、萌子は一生懸命に洗濯物を伸ばしては干している。
バシッと成の背中を叩くと、篤志が言った。
「そんじゃ頑張れよ、成」
そしてそのまま成を萌子の前に、押し出そうとされて、慌てて成は、洗濯物の陰に隠れる。
「ちょっと待てよ」
「何緊張してんだよ、たかが花火の買い出し誘うだけだろ？」
「その後にデートに誘えってコレ持ってきたの、誰だよ」
成はそう言って遊園地のチケットを見せる。むっとしたようにケンが答える。
「偶然持ってたんだよ、遊園地のチケット。気に食わないってのか？」
「そういうことじゃなくてさ」
篤志が再び口を挟む。
「大事なのは勢いだって、勢い」
「無理だとかって？やってみなきゃわかんねぇだろ？」
「だから―」
「お前らだけで、肝だめしやってたんだろ？その罰だ」
「罰って―」
おかしくないか？と成が言おうとしたところで、洗濯物からひょっこり萌子が顔を出した。
「何してんの？」
「あ、萌子」
慌てて三人は整列する。その様子に萌子はきょとんとしているようだった。
はじめに口を開いたのは、篤志だった。
「花火、結局やれることになったじゃん」
「うん」
「それでさ、成が話あるんだって」
うん、と答える萌子の前に、篤志とケンは成を押し出す。
「おい」
「ほらって」
顔を赤らめた成を見て、萌子も戸惑った。だが、そんな中でも、どこかで冷静な目が自分を見ていた。
「あの、さ」
静かに、篤志もケンも二人から離れようとしていた。
そして、成がやっと口を開こうとした時だった。
「つまり、お前と付き合いたいんだってさ。早坂、お前のこと好きらしいぞ」
体育倉庫の陰から、そう言って現れたのは司だった。
「せんぱ―」
驚きのあまり何もいえなくなった成を尻目に、司は大きく伸びをする。どうやら体育倉庫裏で昼寝をしていたらしく、髪に寝癖がついていた。
司は、そのまま動かない萌子に向かって言った。
「物好きな男もいるもんだな。ま、いいんじゃねぇの？沢木。付き合ってやれば？」
呆然として立ち尽くしている萌子たちを無視して、それでも司は話続ける。
「お前、他に好きな男いないんだろ？だったらさ、断る理由もねぇし。付き合ってみろって。駄目なら駄目で、別れりゃいいんだから」
そのとき、グランドの方から司を呼ぶ声がして、司は寝癖を直すと、四人に向かって手を振った。
「ういっす。じゃな」
「あ、ちょっとつかっちゃん…」
篤志が思わずそう声をかけたが、司は無視してグランドに戻って行く。
困った。
そう思ってケンを見ると、ケンも同じように篤志を見つめていた。
当の萌子と成は、ただお互い向き合ったままである。
オレたち、お邪魔だな。
篤志はそう思い、ケンの腕をそっとひっぱり、そのまま自分たちもグランドに戻っていった。
残された成は、戸惑っていた。
言う予定だった以上のことを言われ、何といっていいのかわからなかった。
何より、司が言っていたことに、嘘はなかったのだから、否定も出来ない。
「さーわーきっ」
ふいにグランドから柳田の怒鳴り声がした。萌子がはっと顔を上げて、一瞬成を見つめた。そして、すぐに逸らすと、はいと返事をして、萌子はそのままグランドに戻ろうとした。
『大事なのは勢いだって、勢い』
ふいに篤志の言葉が過る。
「…冗談、とかじゃないから」
自分の脇を無言ですり抜けようとした萌子、成はそう言った。萌子がはっとして足を止める。
「本当、だから」
それだけ言うと、成は萌子よりも先にグランドへと戻って行った。強い風が、萌子の髪を吹き上げた。その勢いで、洗濯物が一枚飛ばされていたが、萌子はただ黙って、しばらくそこに立ち尽くしていた。