今日は定時上がりで
サツキと彼女が幼い頃から行っていたお祭りに行く。

それを聞いたのは先月の終わりだったかな？

サツキは滅多におねだりをすることがない。
だけど
「篤史さんとお祭り行きたいな〜」

なんてかわいいあの声、あの顔で言われちゃ・・
行かないわけにいかないだろう？



マンションに戻り電車で一駅のサツキの家に迎えに行った。
ほとんどが車で迎えに行くのでなんだか新鮮な感じもするな。


サツキが大好きで
今、すぐにでも結婚したいくらいな俺は
サツキの両親は苦手じゃない。

彼女の為にも“馬鹿な彼氏”“使えない婚約者”でいるのは
良くないと思っているし
そんな男じゃサツキも付いて来ないと思っているから
努力というものが必要であればするつもりだ。

サツキの両親とも仲が無理をしないでも
その場にいれるのがありがたい。

親父さんに関しては
歳が違うだろうって門前払いされる覚悟を決めていたから
すんなり受け入れられたときはほっとした。


そのご両親のおかげでサツキと婚約出来て
週末の泊まりも認められていて本当に感謝でいっぱいだ。

その期待を裏切らないようにがんばらなくっちゃな。



サツキの家の前につくとインターフォンを鳴らした。
すぐにサツキの母親が出てきて世間話になった。

・・・サツキは呼んでくれないのか？
と思いつつも彼女の話に付き合う。


少ししてからサツキが姿を現した。

浴衣を着ている。

かわいい。かわいすぎる。


サツキは照れたように微笑んでいる。

俺は無意識のうちに口に出していた。

「サツキは何を着ても似合うね。
すごくかわいいよ。」





年甲斐もなくサツキの手を取り、
恋人繋ぎと言うらしいな・・・これ。
指を絡ませ・・がっちりつなぐ。

今までの女達と手を繋いだことあったかな？

軽く思い起こしても見覚えない。
手を繋ぐこと自体したことがないことに気がついた。


どこまでも今までの俺に新しいことを経験させてくれる。





サツキと歩いているだけでその辺のヤロウが
振り返ってまで見る。


いつもかわいくて綺麗なサツキは
浴衣を着て色気も増している。

そして・・最近覚えた（控えめな）メイクもとっても似合う。


てめえらに見せると減る！！
（そんなことはある訳ないが）

誰にも見せないように
俺の腕に閉じ込めて俺だけのサツキでいてくれるのが
理想なんだけどそんな訳にいかないし・・。


俺は不埒な考えをしていると
隣を歩くサツキの表情が今にも泣きそうな顔をしている。

サツキは基本的にどんな顔をしたって可愛い
だけど・・一人で泣かすようなことはしたくない。


「どうした？サツキ？」

彼女を覗き込み、なるべく落ち着いた声で俺は聞いた。

俺の腕の中でサツキは見上げた。

その瞳は大きくウルウルしている。
そして大きく左右に首を振った。

うぁ・・かわいい。
保護欲そそる。




彼女の歩を妨げるように前に立つとそのまま抱きしめた。
抱きしめた彼女から優しい香がする。

彼女を落ち着かせる為にも
俺は彼女だけに聞こえるような声で囁いた。


「俺がずっとそばにいるから・・泣きたいなら<ruby>腕の中<rt>ここ</rt></ruby>で泣いたらいい。」


今までぎゅっと力が篭っていた
彼女の体から力が抜けていくのを感じた。



そうしてしばらくすると
サツキは俺の腕の中で俺を見上げてにっこり微笑んだ。



っと・・マジでやばいんですけど・・
今日は平日・・・。
お泊りの日じゃない。
明日は午前中から会議、入ってたな。


このまま・・マンションに連れて帰って
俺が車で送ったらいいか・・・。

せっかく来たのに
このままで帰るのは・・サツキに悪いか・・。
俺は周りをぐるっと見渡すと色んな屋台が目に付いた。


「サツキ、何か食べる？」

俺のよこしまな考えのカムフラージュぽいのに
彼女は無邪気な顔をして答える。

良心がズーキン。
それでもよこしまな考えを実行したい訳で・・。

「あっ。りんご飴が食べたい。」

サツキは『りんご飴』と大きく書かれた屋台を指差すと
歩き出そうとした。


彼女の足が止まり――彼女の視線を辿る。


草履で刷れて足が赤くなっている。
歩くのは辛いだろう。
だからやっぱりタクシーでマンションに行って・・・

あ・・違った。

彼女を一人にさせるのは気がかりだったが
人通りも多いし、飴を買ってくるほんの数分だけど・・。
やっぱり・・よこしまな考えは捨てられない。


「サツキはここにいてすぐ買ってくるから」


サツキが頷いたのを確認すると俺はダッシュで買いに行った。




思った以上に時間がかかった。
並んでりんご飴を買う。
どうみても俺が食べるんじゃないだろ？という感じなのに

「お一人ですか？」
など声をかけてくる女もいる。

こんな短時間に逆ナン？
だとしたらサツキが危ない？


俺はさっきと同じようにダッシュでサツキの元に帰った。


サツキの横に男が座っている。
だけど楽しそうに話すサツキにとりあえず
ナンパで困っているじゃないと理解はした。

だけど・・誰だ？
俺のサツキと話すヤロウは・・。


「サツキ？」


俺の声にサツキが振り返る。
そして横にいる男の姿を見た。


裕也・・・・。

ある意味、ナンパヤロウより性質が悪いかも。
だけど一人でいるサツキを守ってくれたんだろうと
思うと少し複雑な気分だ。


裕也は由佳とこのお祭りに来ていたようで
浴衣がサツキと色違いで良く似合っている。

由佳がサツキに絆創膏を渡していた。
応急措置は出来たし・・このまま俺のマンションへ
連れて帰ろう。

お祭りも楽しかったが・・今の俺にはそんな余裕はない。
親友も妹も大切だが


恋人の時間も大切にな。


由佳に「帰るから」と言ってサツキの肩に手を回し
歩き出すとサツキはキョトンとしている。


ちゃんと責任を持って家に送るから・・。
一応浴衣程度なら着付けも出来るし・・。


そんなサツキに俺はにっこり笑うと
一緒に帰ろうな。と囁いた。


間違いじゃないはず。
ただ・・“俺のマンション”に。ってとこがミソだけど。