さくらんぼ家族

　１．さくらんぼ家族　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　野原壱吾、１７歳。
　僕には、血のつながらない双子の妹がいる。
　名前は林檎。

　世の中に、『血のつながらない双子』なんてものがいるのかって聞かれたら、一瞬僕はその答えに悩む。
　だから、ちょっとだけ、破天荒な妹・林檎のことを考えてみた。

　例えば外見。
　僕の顔は、バイト先の常連さんである女子大生の智子さん曰く、
「そこらへんの女子高生よりもラブリー」
だそうだ。たしかに赤ちゃんの頃、よく女の子に間違えられたと母は話している。
　林檎の顔は、兄である僕がいうのも何だけど、すっきりとした美人顔だ。
　僕の身長は、クラスの男子でも前から５番目のおよそ１７０センチ。（本当は１６９．５）
　中肉中背より、ちょっと小さめで、肌も白い。
　林檎の身長は、クラスの女子でも後ろから４番目の１６８センチ。
　手足もすらりと長くて、テニスで鍛えた筋肉と、日焼けした肌がまるで雑誌のモデルのようだ。
　僕の目や、鼻や、口は、すべてがコロンとして丸い。
　林檎の目は、切れ長の目で、鼻もすらっと高い。
　僕が平面的な純日本人顔とすると、林檎は立体的で、ちょっとエキゾチックな顔だ。
　次に、性格。
　僕は、クラスでも地味に過ごし、穏やかな性格で、喧嘩も高校生になってからはしたことがない。
　林檎は、学校の女子に喧嘩を売られて、買っているのは日常茶飯事。（そしていつも、林檎が勝つのだ）
　温和・真面目・受身、が僕だとすると、
　身勝手・不良・積極的、が林檎。

　そう、僕と林檎は、中身も外見も似てないのだ。

　でも。
　だけど。

　裸足が何より大好きだったり、
　果物になら、何でも塩をかけてしまったり、
　嘘をつくときは、思わず鼻の頭をひくひくさせてしまったり、
　大好きなものには、とにかく触れていたいと思うところは、一緒だ。

「どうしたの？」
　隣のほのかちゃんが、首を傾げて僕を見た。僕は、テーブルの上でつないでいたほのかちゃんの手を、ぎゅっと握り締めると、小さく首を振った。
「なんでもないよ。ちょっと破天荒な妹のことを考えていたんだ」
　兄貴ぶってそう答えると、ふふふとほのかちゃんが笑った。
「壱吾くんて、林檎ちゃんのこと、とっても好きなのね」
「うん。でも、ほのかちゃんのことはもっと－」
　好きだよ、甘い愛の言葉をささやく僕らの目の前に、いきなりドンとフルーツパフェが置かれた。
　僕と恋人のほのかちゃんは、日曜日のデートの最後には、必ずフルーツパフェを食べる。ひとつのパフェを二人で食べて、そして甘いバニラ味のキスをかわして、さよならをするのだ。
　一番上のさくらんぼを取って、ほのかちゃんは僕に振ってみせる。赤い実がふたつ、ゆらゆらと揺れた。
「ほら。壱吾くんと林檎ちゃんみたい。このさくらんぼ」
　ひとつの枝につながった二つのさくらんぼ。
　僕はそうだね、と優しく答えた。
　さくらんぼを二つに分けたところで、僕が塩を手に取ると、ふうんとほのかちゃんが言った。
「これにも塩をかけるの？」
「うん。甘味が増すんだ」
「へぇ、野原家流なのね」
　野原家流。
　そう考えて、僕は気づく。
　母の焼いたパウンドケーキが大好きだったり、
　父の眼鏡をかけなおす仕草が、大好きだったり、
　そしてあの破天荒な林檎を、愛しているところは、
　ぼくも、
　父も、
　母も、
　そして林檎も一緒だ。
　つまり、やっぱり僕と林檎は双子で、
　そして僕らの家族は、双子のような家族だってこと。
　それは、血がつながってなくても、関係ないってこと。

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