昼休みの屋上は、相変わらず天気が良くて清清しかった。
　つい1週間前に、あんなすごい闘いがあったとは思えないくらいに。
　けれど闘いの痕は確かに残ってる。
　神楽が避けて曲がった手すりも、割れてしまった北校 舎の窓ガラスも。
　とはいえ窓ガラスは、そのままだと無用心ということで、昨日真新しいのがはめこまれた。悪戯ずきなカラスの仕業ってことになったけど、あ たしは知ってる。
　全ては、あの不気味な黒尽くめ集団、ブッキーズの仕業。
　おおもとの始まりである、あの『連続ホモ通り魔事件』（命名：絵梨）は、被害者たちが軽傷だったせいなのか、もう誰も口にしないようになっていた。千寿 （ｾﾝｼﾞｭ）曰く、人の噂も75日というらしいけど、その10分の�Tにもならなかった。犯人・ブッキーズたちの目的だった神楽（ｶｸﾞﾗ）も、背中に 負った傷もすっかり治って、今やぴんぴんしてるから、立派な被害者のあたしですら事件のことを忘れてしまいそうだ。だから、ここでちょっとまとめておこ う。
　『連続ホモ通り魔事件』（何度も言うけど、命名したのは絵梨）。
　ちょうど2週間くらい前、まさにあいつらが、学校ではアイドルの火狩（ｶｶﾞﾘ）三兄弟（女ったらしの長男神楽、頭脳明晰で冷血非情な次男千寿、脳味噌 まで筋肉になってる運動バカ蘇王）が、あたしの家に居候してきたくらいから起こった、学校周辺で若い男を狙った通り魔事件のこと。被害者はうちの男子生徒 というだけで、それ以外の共通点は全く見つけられなかった。
　いらつくことは続くわけで、いわゆる犬猿の仲だった、あたしと、火狩神楽・千寿・蘇王（ｽｵｳ）は、やっぱり家でもケンカをしていて、そのうち神楽は、「女の家に行く」といって家出をしてしまっていた。
　そんな神楽に腹を立てながらも、あたしは、被害者たちの共通点の中に、神楽も含まれてることに気付いたの。そのとき、神楽は誰もいなくなった学校にい て、まさに犯人・ブッキーズに襲われてるところだった。慌てて駆けつけてはみたけど、鍵のかけられた門の前で立ち尽くす前に現われたのは、千寿と蘇王で、 彼らはその不思議なパワーでもって、門を開けてしまったの。
　そう、千寿、蘇王、そして神楽の三人は、なんと超能力者だったの。
結局、神楽の頑張りもあって、犯人との闘いには勝ったんだけど、謎は深まるばかり。
　まず、犯人の顔がわからなかったこと。（黒尽くめでマスクしてたから）
　そして、煙のように消えてしまったこと。
　それから、神楽が襲われた本当の理由。
　そして何より、そのブッキーズの中には「御堂」というリーダーがいて、どうも神楽たち3人を狙ってるみたいなの。ところが、当の三人が全く心当たりがないということ。
「気付かないところで、山ほど、ううん、星の数ほど敵作ってるからね、あんたたちは」
「なんだとぉ？」
「よせ、蘇王。相手にする方が馬鹿だ」
　なんですってぇっ、千寿っ。
「まーたしかに、俺ってふった女の数、覚えてねぇや」
「お前も認めるなよ、神楽」
　まーそーやって、勝手に自慢してればっ。
そこに蘇王が珍しく冷静に言う。
「つーかさ、紗那だって、やばいんじゃないの？立派な協力者じゃん」
　げっ…。そ、そんなことない…けど。
　不安っ、すっごく不安っ。
「柔道2段の蘇王っ、あたしのボディーガードしてっ」
「俺、部活５つもあって忙しいもん」
「剣道が県大会で3位だった千寿っ。お願いっ」
「お前の方が強いから、大丈夫だ」
「仕方ないっ、神楽っ。あんたでも我慢するっ」
「お前頼み方間違ってるぜ。しかも、俺。デート忙しいからパス」
　ちょっちょっとぉ！
　誰かあたしを守ってよっ。