「駄目だ、千寿。オレぜんぜんわっかんない」
　頭を抱えてそう叫ぶと、千寿と、紗那と、その隣に座る杏まで、隣に置いた自分のランドセルに顔をのせて、ふぅと大きな溜息をついた。
　ただひとり、右近だけが、ちょっと離れた場所で、壁にもたれてこっちをみている。
　ここはオレたち火狩三兄弟が居候している葉月家のリビング。
　今はおばさんが買い物に出かけたタイミングを待っての、内緒の会議中なのだ。
　集まったメンバーは、千寿、紗那、右近、杏、そして俺。
　旅に出ると言い残し、家を出て行った神楽は、そろそろ一週間になるというのに、まだ帰ってくる気配すらない。
　うーとうなっているオレを見て、千寿は口元をひくひくさせながら、だからな、と繰り返す。
「何度も説明してるだろ、蘇王。全然難しいことじゃない。
小学生の杏にだって、ましてや紗那にだってわかるんだぞ」
「そうそう。杏にも、あたしにもね。
―って千寿？今あたしのこと杏以下って言わなかった？」
「気のせいだ」
　千寿はそう言ってから、軽く右上を見る。
　千寿が嘘をつくときのくせだ。
　気づいた千寿の小さな恋人・杏が笑い声を上げる。
「杏、笑うな」
「だって―」
「問題は紗那じゃなくて、蘇王なんだぞ」
　千寿がびしっと叱ると、杏はしゅんとして素直にごめんなさいと謝る。その様子を見て、千寿も叱りすぎたと思ったのか、
「反省してるならそれでいい」
なんて優しく言う。
　冷徹非情な千寿にこんなことをさせてしまうなんて、恋ってすごい。
　まじまじと二人をみてるオレの頭をかるく叩いて、紗那が頬をひきつらせて言った。
「あのぉ、お二人さん？いちゃつくんだったら、ご自分のお部屋に行ってくれる？
　あたしと右近は、まっじめな話を蘇王にしてるんだから」
　ってぇな、紗那。
　暴力反対だぞ。
「うるっさいわね、このあんぽんたんっ。そもそも、あんたが理解しないから、いけないんでしょっ？」
　紗那がまた手を上げようとして、千寿はわざとらしく咳払いをした。
「いいか？蘇王。もう一度説明するぞ。
　まずは人というのはだな―」
「ってか、千寿。あんたの説明が難しすぎるから、蘇王のからっぽ頭に理解できないのよ、きっと。あたしが説明してあげる」
　割り込んできた紗那を、千寿は鋭い眼光で睨みつける。
「お前の説明で蘇王が理解したら、俺のプライドが許さん」
「何よ、それって」
　言い争う千寿と紗那を見て、杏も、右近までもが溜息をついた。
　よしっ、ここはオレが納めるしかないだろ。
　勢いよく椅子から立ち上がり、オレはにらみ合う二人の間に入る。
「まあまあ、千寿も紗那も。
　よくわかんねぇけどさ、でも、最後には何とかなると思うから」
　途端に二人はあっけにとられた顔をして、がくっと肩を落とす。
「お前ってほんと…」
「おめでたいよね…」