天使の翼　神楽篇

エピローグ

「突然光が窓から入ってきたんだ、飛び散るように。そしたらあいつらみんな消えちまったんだ」
　あたしは３人の手当てをしながら、説明する蘇王の話を聞いていた。千寿も同じだったらしい。
　飛び散った光は、多分あの神楽の光なんだとあたしは思った。
　お母さんは消えたあたしたちを心配して待っていた。
　そして怪我だらけの３人を見ると、すぐに卒倒してしまった。今もベッドで眠っている。
「いい訳は千寿に任せるとして。やつらって何者なわけ？御堂って？」
「知らねぇよっ」
　いち早く手当ての終わった神楽は、ソファーに寝転がりながらそう言った。
　けど、向こうはあんたのこと知ってたのよ。
「知らねぇもんは、知らねぇよ。わかってるのは…。これからもあいつらはオレたちを狙ってるってことだ」
　その時電話が鳴って、一番近くにいた千寿が電話に出た。千寿はちょっと驚いた顔をして、それから何度か頷くと神楽に受話器を向けていった。
「神楽、インドのオヤジから電話だ」
　一瞬神楽の表情は曇ったけど、顔を上げて改めるように千寿に聞き返した。
「インド？転勤先はロスだろ？」
　そうそう、ロサンゼルスの大学って聞いたけど。
「お前がまた家でしたことを一昨日電話で伝えたんだ。
　親父は日本に帰ってくるって慌てて家を飛び出した。ところが飛行機を間違えて、日本に着くどころか、 パリにいっちまった。慌てて降りてアジアの空港を経由して日本に着く飛行機を探して乗ってみたらそれはインド止まりだったってわけだ。加えて今、航空会社がストに入ってるらしい。あと２日はインドの空港に寝泊りだな。慌てすぎて、親父の靴下、左右で色が違うそうだ」
　神楽は一瞬表情を無くして、誰に言うわけでもなく言った。
「いつも服にこだわって、大学に遅刻しそうになる奴がか？」
　それから急に笑い出した。それは、蘇王にも伝染して、千寿を経由してあたしにも移った。
「そんじゃ、もう日本に戻る必要はないってこと言わなきゃなんねぇな」
　神楽はそう言って、笑顔で受話器を取った。
「何してんだよ、親父」