宝物「眠レヌ夜ニ、オヤスミノＫＩＳＳヲ」

眠レヌ夜ニ、オヤスミノＫＩＳＳヲ

　眠れない夜は、あったかいミルクとここちよい体温、それから・・・・・・

a long time ago

　夜、眼が覚めると、ひとりでは寝れない・・・・・・小さいころの私はそんな子供だった。
　まくらと大好きなくまのぬいぐるみを持って、布団からでると、隣の部屋へ向かってた。
「直ちゃん」
　勉強机に向かってる叔父さんである、直ちゃんに声をかける。
　子供の私は、もう寝てる時間。
　だけど、直ちゃんは勉強の真っ最中。
　邪魔しちゃだめ！ってお母さんはいうけど・・・・直ちゃんはいつも笑顔で迎えてくれるから。
　ほら、今日も・・
「どうした？嘉穂。また寝れないのか？」
　優しい笑顔と、暖かい両手。ぽんって頭を撫でてくれて・・・・・・・。
「じゃ、一緒に寝ようか」
　そういって、スタンドの明かりを消す。私のことを軽々と抱き上げて、ベッドまで。
「今日は、ミルクは？」
「ん？今日はミルクはなし」
　いつもならあったかいミルクを飲んでオヤスミ。
「僕が眠いから、ミルクを飲むより寝させてください」
そういって、お布団に二人でくるまるの。おっかしいの。さっきまで直ちゃんはお勉強してたのに・・・。どうして眠いなんていうのかな？
　でも、暖かい体温がきもちよくて、まぶたがうっつらうっつら。
「おやすみ、嘉穂」
　おでこにあたたかい感触。そのまま私の意識は沈んでいった。
　おやすみ　直ちゃ・・・・ん。

　嘉穂が眠ったら、そっと布団を抜け出して、再び勉強。嘉穂は毎晩のように僕の部屋にやってくる。最初のうちは「雷がなってるから」とか「へんな音がする」とかいって布団にもぐりこんで来たけれど。いまじゃ、何もなくても、僕の両手は嘉穂のため。あたたかい布団も嘉穂のため。
　それでも、嘉穂の笑顔に癒されてる自分がいて。
　あたたかい子供の体温に、知らず笑みが浮かぶ。ぎゅって僕の服を掴んで、か細い寝息を立てて、僕の小さな小さなお姫様は眠り姫になる。

　朝、起きて愛娘の部屋に顔をだすと、そこはもぬけのから。いつものことかとためいきをついて、部屋を移動する。
　そこには、直久の腕の中で幸せそうな笑みを浮かべて寝ているお姫さまが一人。
　ついでに、腹に足を乗せられて腕で頭を強打され苦悶の表情を浮かべている・・・・かわいそうな王子様かしら。
　こんな二人はしょっちゅうだけど・・・・。いつもは直久が私が来たことに気づいて目を覚ますのに・・・。めったにいないチャンス！！
「こんなチャンスはめったにないわ」
　ほくそえみながら、いつもシャッターチャンスを逃さないためにポケットに忍ばせといたカメラを取り出す。
　カシャ。
「あれ？姉さん？」
「あら、おはよう、直久」
　なにもなかったかのような笑みを浮かべて・・・・・・。カメラのシャッター音に気づいてない直久に内心ほくそ笑む。
　これは、嘉穂のアルバムに張っておかないとね。ふふっ。

　部屋を整理してたら、アルバムをみつけた。つい、懐かしくなってページを開いたら止まらなくなった。
　お母さんは、一つ一つの写真にコメントまでつけてる。
『直久におんぶ抱っこ』とか。
『子連れ登校？！』とか。
ちょっと頭が痛くなるような、でも暖かい言葉がいっぱい。お母さんに愛されてたんだなぁってほんとに思った。
　そんななかで、一枚の写真が眼を引いた。
　幼い私と、中学生くらいの直久さんが一緒に寝てる写真。そういえば、小さいころはなにかにつけて直久さんの布団にもぐりこんでいたような気が・・・・・・・。
「いやだ。なんでこんなに寝相が悪いの？」
　直久さんの腹は蹴ってるし、顔に腕をぶつけてるし・・・・・・。それでも毎日一緒に寝てくれてた。

『これはこれで愛しい日常』

　お母さんのコメント。少し笑っちゃった。苦悶の表情を浮かべてる直久さんがおかしくてまた笑った。
「なにやってんだ？嘉穂」
　後ろから声がして、びっくりして「ひゃ！」とかいっちゃった。
「なんて声出してんだよ・・・・・・・ん？アルバム？」
　ひょいって私の手元を覗き込んで、苦笑いを浮かべた。
「義姉さん・・・・何時撮ったんだ？こんな写真」
「ふふっ。お母さんってば、いつもカメラを持ち歩いてたから。でも、このころの私って、直久さんとよく寝てたよね」
「まぁな～。俺の布団で寝たほうが多いんじゃないかってくらい、一緒に寝てたな・・・・・・・・それにしても、嘉穂・・・・・寝相の悪さは変わらないなぁ～」
　しみじみと・・・・しみじみと語らないでよ・・・・・・。
「今は、そんなことないよ・・・・・」
「なにいってんだ？お前、この間俺のことを蹴飛ばしてたんだぞ？」
　にやにや笑い。この間・・・・を思い出してちょっと顔が赤くなった。もちろん、私には直久さんを蹴飛ばした記憶なんてないもの。朝起きたら、普通に直久さんの隣で寝てたんだから！
「うそ・・・・」
「うそじゃないって！今度カメラでも回しとくか？」
　もう！って怒って、たたくふりをすると優しく微笑む直久さんがいた。優しく微笑まれたら怒りなんて持続できないのしってて笑うんだから・・・・・。
　照れて赤くなってるとこなんて見せたくないから、会話をかえた。
「でも、ね。このころの私の安眠方法って、
　あったかいミルクと、直久さんの体温だったような気がする」
「そういや、寝れない夜はいつもそのセットだったよなぁ」
「あと・・・・」
　もうひとつ思い出したけど・・・・。恥ずかしくていえなかった。先を促されたけど、言わなかった。

　その夜、なんとなく寝つきが悪くって・・・・・。
　昔の話を思い出したからかな？直久さんの寝室の戸をそっとあけた。やっぱり机に向かってなにかしてる・・・・昔と違って今はめがねもかけてる。最近、眼が悪くなったっていって仕事のときだけめがねを着用してる。ほんとは車を運転するときもかけなきゃならないのに、めんどいって。事故起こしたらどうするんだろ？
「直久さん」
　戸のすきまから顔をだすと、
「嘉穂？」
驚いてたけど、すぐに笑顔で手招きしてくれた。とことこと直久さんの傍までよる。
「仕事忙しい？」
「いや、そうでもないよ？・・・・・・・もしかして、昔を思い出して寝付けない？」
　図星だったので、ほほを膨らませてすねてみた。
「いけない？」
　思いのほか、幼い声がでて自分でもびっくり。
「いけないことないよ。じゃ、今日は嘉穂の枕になりましょうか・・・・」
「・・・・・・大好きよ。直久さん」
　私の言葉に、少し笑ってた。
　二人で、ベッドに入って・・・・・・。昔みたいに直久さんの体温を感じて幸せ。
　ゆっくりゆっくり意識は、眠りのそこにおちてった。

　まったく・・・・・・。いつまでたっても子供みたいだな。
　寝付けないといって部屋を覗き込んできた嘉穂の顔を思い出して笑みがこぼれた。
「夜這いにきたのかとおもったじゃないか・・・・」
　関係をもつようになってから、嘉穂はあまり夜中に寝室を訪ねることもなくなった。どうも俺の部屋は、あのときのこととかを思い出して恥ずかしいんだそうだ。だから、部屋にやってきた嘉穂に少し驚いた。
　昔の思い出に感傷的になってるんだな、ってすぐにわかったが。それはそれで残念な気もする。
「いつまでたっても、俺は睡眠安定剤なのかね？」
　ぼやくように呟くと、寝ぼけた嘉穂が抱きついてきた。
「・・・・す・・き」
　呟くように、寝息とともにつむがれた言葉。
　愛しくて、愛しくて、・・・・・・・眠る嘉穂にキスをした。幸せそうに笑って、もっと抱きついてきた嘉穂を抱きしめて、俺も眠りの中へ。
　抱きしめてるのは、とても大切な宝物。

　眠れない夜は、あたたかいミルクとここちよい体温・・・・・・・あと、オヤスミのキス

　

『ＩＮＳＯＭＮＩＡ』の8万ＨＩＴ企画「ＬＯＶＥＲＳ　ＫＩＳＳ」で、お持ち帰りＯＫということで、頂いてきました。
　まさにホットミルクのように温かくてほんのり甘いお話です。
　なお、この作品の著作権は作者の秋月知咲さんに帰属します。無断転載等は、ご遠慮下さい。

INSOMNIA[master:秋月知咲様]